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2020 / 02 / 29
私とステラ・アドラー演劇、そしてリンクレイターヴォイス その1
久しぶりに個人のブログを更新します。
初めは、今、自宅にいる私の生徒達やスタッフへのメッセージを送りたいと思っていました。が、ブログでメッセージを送っても良いなと思いました。だって、こんな時ですもの。
今回、未曾有の新型コロナウィルスへの感染が広がる中、苦渋の決断ですが、2月29日、3月1日上演予定だった、私のスタジオstudio unseen 発表会「アンティゴーネ」と、その後に続く予定だった、リンクレイターヴォイスワークショップを中止しました。
ギリギリまで、お稽古を重ね、突然の中止に、生徒たちは呆然としたでしょうし、今はそのエネルギーをどこに持って行ったら良いか、戸惑っているかもしれません。中止の判断を理解するには、時間ともう少し私からの「言葉」が必要だったかもしれません。そのもどかしさは、私も同様で、ここ数日の動きを見ていても、この決断は正しかったと自分に言い聞かせていますが、では、なぜそうしたのだろう、何が私にそうさせたのだろうと、自分に問い続けました。
それは、もし、今回決行してしまったら、これまでやってきた、クラスで教えてきたことが、嘘になってしまう、それが最終的な理由でした。
何を私はあのロサンゼルスのステラ・アドラー演劇学校の恩師たちや、リンクレターヴォイスの師匠、クリスティンから学んできたのだろう、もっと翻れば、最初に私に芸事の基礎を教えてくださった、バレエの大滝愛子先生に始まり、宝塚歌劇団の恩師の方々は、どういうことを伝えて来てくださったのだろう。思いを巡らせる思いがけない時間になりました。
それは、やはり演劇というのは、人間学だということです。
ですので、思いつくまま、私の思い出の瞬間を書いていこうと思います。なんせ、表現を生業にしている私達がその場を失うことは、じつに哀しいことでもあるのですから、このくらいは、許してもらえるでしょう。
生徒達、スタッフのみなさん、稽古場でいろんな瞬間がありましたね。ときどき、私は脱線して、わっと浮かび上がった余談を話しだしたことが何度もありますが、あの瞬発的なものも、案外良い時間だったのではないかと思っています。まあ、これも、そんなもんだと思って読んで下さい。
いざ、書き出すといつもの通り、沢山あふれるようにエピソードは出てくるのですが、まずはなぜ私は宝塚歌劇団を卒業してから、海の向こうのステラ・アドラー演劇学校に行ったからから始めないとです。たぶん、みんなが思っているのを良くも悪くも覆すと思います。
それは、私はまったく舞台も演劇も続けるつもりは無かったということです。
当時まったく演劇から離れ、アメリカで専業主婦で小さな男の子二人を育てていた私を「ステラ・アドラー演劇学校」に導いたのは、一人のロシア人の演劇の先生、ユージン・ラザロフとの出会いでした。ユージンはモスクワアカデミー演劇学校の出身。移民でした。UCLAのプログラムで3ヶ月の「スタニスラフスキーシステム」のクラスがあり、当時の私は偶然の重なった不思議なめぐり合わせで受講することを決めました。英語もままならないのに。
毎週一回、小さなスタジオで行われるクラスに、私は驚きました。宝塚歌劇団で学んできたものとはまた違うアプローチでした。ロシア訛りでユージンは何度も言います。improvise! improvise! 即興で!即興で!
即興ってなんだ?そんなもの何の役に立つんだ??歌劇団で緻密に台本に従って舞台を作ってきた私は最初は訝しく思ったのですが、ユージンの導くテネシー・ウィリアムズの「欲望という名の電車」チェーホフの「かもめ」はこれまでの既成概念を完全に崩し、創り上げていくおもしさに夢中になりました。3ヶ月のクラスはあっという間で、最後に評定があるのですが、私の評定は「A」
信じられませんでした。英語も出来ない自分がなんで?でも、心の深いところから声が聞こえます。もっとユージンから学びたい。学ばなくてはいけない!帰ろうとするユージンを捕まえて私は言いました。「もっとあなたから演劇を学びたいです。どうしたら良いですか?」ユージンは、「あ〜、それなら私はステラ・アドラー演劇アカデミーというところで、チェーホフを教えているから、そこに来たら良いよ。」そういって車で去って行きました。
「ステラ・アドラー演劇アカデミー」……
地図をたどって、行き着きました。それはハリウッドのど真ん中。古いビルの2階にあります。入り口には、大きな新聞の記事が一人の女性の写真と共に貼ってありました。その記事の冒頭にこうありました。「演劇はイマジネイションだ。イマジネイションがあれば宇宙にだって行ける。」
宇宙…..宇宙なんだ…..。
その女性がステラ・アドラーだとわかったのは、その後のことでした。
その2に続きます。