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2018 / 12 / 25
2018年リンクレイターヴォイス基本長期クラス、演劇長期クラス 1年間レポート
2018年12月23日をもって、リンクレイターヴォイス長期クラスとステラ・アドラー演劇基本テクニーク&戯曲解釈クラスが無事に終了いたしました。6月3日から7ヶ月間、56回の行程になりました。
リンクレイターヴォイス長期クラス終了者11名
ステラ・アドラー演劇クラス終了者6
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リンクレイターヴォイス基本長期クラスでは以下の項目を順を追って構築していきました。綿密に計算された声を自由にするためのプログラムです。
6月*ヴォイスポエム
深層の深いところに眠っている自分自身の声、意識下ではなく無意識下にアクセスする目的で、イメージと言語を瞬発的に描く、書くという動作でリリースしていきます。リンクレイターヴォイスは感覚を共感覚に持っていくもので、言語はビジョン、色彩、イメージと合致させて行きます。なぜこれが必要なのでしょう。演劇にとって、セリフを俳優が語ったときに、その絵がしっかりと見えてくることが大切で、生徒はその導入から入ります。出来上がったヴォイスポエムは自己の深いところからのリリースになります。無機質なスタジオは一転して美術館のようになります。これらはこの先の長期クラスをずっと見守ってくれることになります。
6月〜7月
*おはようのシステム
*脊椎の認識
*緊張とリラクゼイション
*タッチ オブ サウンド イニシャルバイブレイション
声を自由にするには、解剖学的な視点、イマジネイティブな視点、そしてクリエイティブな視点のこの3方向から働きかけることが大切です。声は、言語はどうやって派生するのだろうか、骨格標本を見つつ生徒は実感を持って理解していきます。そして幼少期の言語習得期、または大人になる過程の様々なトラウマによって、赤ちゃんのころに自由だった自身の声は不自由になってしまうのです。ここではそれに気づき、声の最大の敵である「緊張」をどうやったら緩めるかを理解していきます。
7月
*ハミング
*タッチオブサウンド ハミング リリース
*フロアーワーク 斜め、胎児、ダンゴムシ フロアーから立ちあがった人間のヴォイス
700万年前に立ちあがった人類は、重力に抗う身体を持って、言語を習得しました。この期間は立った状態のエクササイズの次の段階、床を使ったワークです。様々なフロアーワークによって重力に身を委ねることが出来るようになると、緩んだ身体、骨に音が響くのを感じます。そしてそこからまさに初めて立ち上がった体験を追体験するのです。頭を上げ、相手を見て語った言語はまったく今までと違ったセンセーションを持って飛び出すのです。
8月〜10月
*顎
*舌
*ソフトパレット
ここでは、バイブレイションが水だとしたら、その水門を閉ざしてしまう顎、舌、ソフトパレットをよく理解し、呼吸から分離させます。
人間は7歳前後の言語(文節)を取得する過程で、本能的な声(言葉)を出した瞬間に、母親など最も信頼する他者から躾などでNOを突きつけられます。その時に子供は反射的に、息を止めてしまうのです。しかし、強い欲求はそのまま何かしらの言葉で相手に伝えようとします。つまり、息の不足のまま言語を発するのです。なので不足した息をどこかで代行したり補足したりします。その最も大きな場所は顎であり、舌であり、口腔の後ろ側のソフトパレットになります。
顎に関しては、ほとんどの人が顎=口腔の前側という意識しかありません。正しい顎関節の動きを視覚的にも理解して、口腔の後ろ側を広く開けていきます。上顎の上を超えるように明確な意思を送りつつ声を自由にしていきます。
舌は、脳の大きな分野で司られています。ですから舌のワークは脳の再教育でもあるわけです。舌を大きく4つのパートに分類してエクササイズを地道に続けていくことで、下地である息も、声も、舌に絡め取られることなく、自由になっていきます。
10月〜11月
*共鳴体 胸 口 歯
*肺のエクササイズ
声がリラクゼイション重視でエクササイズしてきた次は、共鳴体に反響させることを学習します。低音部の共鳴体は胸、口、歯です。そして骨や空洞に反響した音はムード、リズムも持っています。日本人のDNAにアクセスするために、民話や伝承の言葉を使って、生徒は声や言語の広がりを体感します。そして、次の段階、低音から中高音への音域にいくには、ブレスパワーが必要です。横隔膜、肋間筋、肺の構造と動きを他者の身体を触ることで理解し、楽しいイメージワークを持ちながら、肺を筋トレしていきます。
11月
*サイネス(副鼻腔)
*ネイゼル(鼻根)
*ファルセット(頭頂)
中高音から高音域へ。副鼻腔、鼻梁は非常にパワフルな共鳴体です。しかしそれを封じているのは、社交で培われた表情筋です。自己を隠すために重いカーテンのように垂れ下がっていたり、または内面をごまかすために張り付いたような笑顔でバイブレイションを殺してしまいます。これらの様々な顔の筋肉を緩め、ブレスパワーで培った大きな解放の呼吸を吹かせることで、3次元の(頭蓋の奥)共鳴体が鳴り始めます。そして、頭声(ファルセット)です。ここまでワークすると、声の音域として3〜4オクターブの自由な声が出ることになります。ここまでが、非言語パートとなります。
12月
*声のレインジ(音域)
*滑舌
通常発声練習というと、すぐに言語での練習になるのを良く眼にします。しかし、ヴォイスパート(非言語)が自由になって初めて、それが編成された言葉も自由になるのです。たまたま日本語を話すかもしれませんし、英語かもしれません。ロシア語、中国語。つまりはヴォイスパートはすべての人間が共有出来るのです。しかし、人間のみが声が自由でも言語編成がなされないと互いに理解しあえないのです。最終的に言語をつくる口腔8箇所のうち2箇所がくっついて(滑舌の英語アーティキュレーションの語源はジョイントする、くっつくという意味)子音となります。くっつかなければ母音です。これら3〜4オクターブの声の音域をもって、滑舌パートをエクササイズするのです。緻密に繰り返し繰り返し、バレリーナがバーレッスンで様々な箇所を可動させるように、口腔の言葉を作る部分部分をエクササイズしていきます。最後にはフィジカルヴォイスウォーミングアップです。他者の身体、骨、空洞を共有し、共有の重さを利用して、これまでに無い骨の体感、音の体感、言語の解放を体験します。
テキストは詩人の詩であり、ヴォイスポエムです。それは語る人の深い心象に触れ、声を通して言葉という媒介で理解しあい、個々は喜びに満ち溢れ解き放たれるのです。
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演劇長期クラス
6月
*2ヶ月間のリンクレイターヴォイストレーニング
*浅川俊彦さんによる身体のワーク
演劇長期クラスは、今年は初めてのチャレンジで、6月7月の初期はリンクレターヴォイスの基本的レッスンを必須にしました。のちのちのシーンやエクササイズで爆発するような感情をしっかりと支える声と身体と精神が俳優には必要なのです。また、浅川俊彦さんによる和の動きを取り入れた身体ワーク。今回声と身体で長期クラスをスタートしたことは、じつに、このあとに続くエクササイズに効果を成しました。
6月〜8月
*ビジュアライゼーション見たままを口述する
*場所を作る 公園のエクササイズ
*5つのアクションの連動 屋根裏 / 蔵
ここではシーンワークに入る前のエクササイズを重ねていきます。シンプルに何も無いところにイメージを見たままを口述していくエクササイズでは、言語=イメージの合致 させていくことのトレーニングです。そこから「場」をつくります。イメージで作った場にまず「居る」ということ。これがすべての始まりです。「場」が出来上がったら、そこでアクション(動作)を連動させて物語が生まれていきます。屋根裏や蔵なの、人が感傷的になりうる場所から、5つの動作を連動させます。ここは生徒は自分ですべて創作し課題を持ってきます。
8月〜9月
*賛成派反対派のスピーチ
*だべる 話す 議論する 喧嘩する アクションのクレッシェンド
シーンやキャラクターは表層だけを見るのではなく、その深層、表裏を見なくてはいけません。そのエクササイズとして、スピーチを賛成派と反対派の両方を作ります。テーマは「中絶問題」「死刑制度廃止」「原子力発電」生徒は新聞や図書館、ネットなどで、リサーチを綿密にし、その双方のスピーチは世界中に語るエネルギーを持って語られなければなりません。
9月〜12月
*ダニーと紺碧の海戯曲解釈
*ダニーと紺碧の海 ブレイクダウン
*ダニーと紺碧の海 シーンワーク
*ダニーと紺碧の海 インプロビゼーション
*教える
*ハムレットモノローグ 教える
*かもめ 戯曲解釈
*かもめ シーンワーク
ステラ・アドラーの愛弟子であった、チャールス・ワクスバーグ著「Actor’s Script」をベースに、戯曲解釈を学びます。ここで、スピーチのキャラクターの表裏が役に立つわけです。戯曲=難しいという概念を取っ払い、毎朝トーストを食べるようにもりもりと戯曲を読めるようにします。J・P・シャンリィの「ダニーと紺碧の海」では最初のシーンのセリフ一言を理解するかしないかで物語の意味は一転します。俳優たちは言語にあるメタファーをアーティスティックに強い選択が出来るようになります。
シェークスピアのハムレットモノローグ。ここでも、言語に色覚的なイメージを重ねることで、膨大な言葉に溺れることなくしっかりと一語一語にイメージが乗ることを試しました。日本語言語はむしろ、この文化が本来あるものです。(俳句しかり)これは初期にヴォイスワークをやっていたからこその発展です。
そして、チェーホフの「かもめ」の戯曲解釈から、即興的なエクサイズをやり、マーシャとメドベージェンコの冒頭のシーンに臨みます。俳優たちの自主性を引き出し、瞬間に生きる。戯曲を良き制約としてその中で自由になる。何度も何度も繰り返しこのシーンに触れてきましたが、毎回新しい発見、驚き、普遍性を学ぶことが出来ました。
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2018年は、スタジオで様々なお稽古が繰り返されました。長期クラスのみではなく、春に開催した体験ワークショップ、個人レッスンの受講者、またプラハでの公演のお稽古など、創作の場と学びの場として、フル回転出来たことに、心からの感謝を感じます。ありがとうございました。
来年は、1月より3月の発表会に向けての新しいクラスのスタートです。また、一日体験ワークショップも5月の大型連休に開催する予定です。
沢山の体験と出会いに心より感謝を申し上げます。より良い創作の場を作れるよう、これからも精進して参りたいと思います。
今後ともどうかよろしくお願い致します。
studio unseen 主宰 / リンクレイターヴォイス国際資格認定講師
登坂倫子