Blog ブログ
-
2020 / 03 / 15
私とステラ・アドラー演劇、そしてリンクレイターヴォイス その6
先が見えなくなってきました。大きな不安が広がる中、私のところには連日世界中のリンクレイターヴォイス国際資格認定講師からのメールが届いています。私たちは、インターネットで繋がっていて、様々な情報を交換出来るようになっています。ここ一週間のほとんどが、オンラインでどうやって教えていくかの方法であったり、体験談です。世界中の大学や演劇学校などでは、各国の緊急事態宣言と共に、授業はオンラインとなり、つまりは、いつも私がやっているようなスタジオで共に呼吸し声を交わすクラスが出来なくなっているのです。今朝届いた上海からのメールでは、いち早く状況に対応してきた上海のリンクレイター資格講師が、その体験などを詳しく伝えてくれています。
どの講師も苦しい状況の中、希望を持っています。教えは続くということです。日本にいる私も、世界中で今葛藤している仲間を思うと、勇気をもらいます。目的は「あなたの声を通してあなた自身を自由にすること」その要求があれば、永遠に我々は教えを続けていくのです。
ティムのクラスに戻ります。思い出せばあの頃のステラ・アドラー演劇学校の講師たちは素晴らしいアイデアで生徒たちを触発し、扇動し、前に進ませていたと思います。ティムはそのテクニーク1,テクニーク2のクラスの前に必ず一冊の詩集を一人の生徒に手渡し、一つの詩を読むように指示します。生徒はしばらくそれを黙読します。そして、いちど皆の前で素読みさせ、ティムは静かに問いかけます。” Where are you?” 場はどこ?と。
生徒は瞬発的に直感的に答えていきます。”on the beach” 海辺です。
Tim: ”Who are you?” あなたは誰?生徒:” I am ….very old fisher man” 年老いた漁師です。Tim:”What do you want to do?”何をしたいアクションは何?生徒:” well….I want to ○○” Tim:”Why do you want to ○○?”なぜそれをしたい? 生徒:becaouse ….I ..○○”このように、生徒がシンプルに選んだ場所を明確に可視化して像を場に結んで行きます。そして上記の4つに集中して、書いてある詩の文字にかじりつくのではなく、一行一行視覚にいれては離し、ただシンプルに詩の言葉を語っていきます。
ここまで書けばstudio unseen の生徒たちは、もうわかりますね。私が今「即興詩」と読んでいるエクササイズです。場を明確に作り、自分は誰?何をしたい?なぜしたい?この4つだけで、演劇空間が立ち上がります。私はこれは最近では、宝塚歌劇団での教えでも、他のミュージカルアカデミーでも大事にしているワークです。
あの頃、毎回一人の生徒が指名されて、たった一つのシンプルな詩が見事にTimのサジェスチョンをもらいつつ、世界が変わっていく様を目の当たりにして、「Tim! あなたは魔法の粉を持っているでしょう?!」と内心叫んでいました。一方で英語がよくわからない私には、きっと無理だろうなと少し寂しい気持ちでもありました。実際Timは決して私を指名しませんでした。テクニーク2の最後のクラスまでは。
Noriko これを読んで。と手渡された詩は、Dylan Thomas の in my craft or salen art でした。ポケットサイズの辞書で単語を必死に引きながら、なんとか全体の意味を理解し、私の即興詩が始まりました。その詩をここに書きますね。どうぞ必要ならば辞書を引き引き読んでみて下さい。あの日の私のように。
In My Craft or Sullen Art
by Dylan Thomas
In my craft or sullen artExercised in the still nightWhen only the moon ragesAnd the lovers lie abedWith all their griefs in their arms,I labour by singing lightNot for ambition or breadOr the strut and trade of charmsOn the ivory stagesBut for the common wagesOf their most secret heart.Not for the proud man apartFrom the raging moon I writeOn these spindrift pagesNor for the towering deadWith their nightingales and psalmsBut for the lovers, their armsRound the griefs of the ages,Who pay no praise or wagesNor heed my craft or art.美しい詩です。この詩を通して私が体験しことは、自分の永遠のテーマとも言えます。
Not for ambition or bread
Or the strut and trade of charms
英語の壁は大きく、テクニーク1のクラスのあとで何度も私は泣きました。ほんとに皆の言っていることがわからなかったし、自分のやっていることも何一つちゃんと話せないし、幼い子供をおいてまでして何をしているのだろう?あるとき、そんな私をTimは呼んでこういいました。「諦めるな。心配するんじゃない。君にはとてもとても高いイマジネーションがあるんだ!」と。huge imaginationという単語だったと思います。それが可視化能力であったことは、かれこれ20年近く経った今、ようやくわかってきたわけなのですが。でも、講師の言葉によって、励ましの言葉によって、私はいつのまにか、詩が読めるようになり、戯曲が読めるようになり、専門書が読めるようになっていました。もちろん、いつもたどたどしく辞書を引きながらです。今でもそう。それでいいのです。
講師が生徒を伸さんと仕掛けた、例のティムとエレーナとポールの、土曜日のワークショップも、私にかけがえの無い言葉に出会う機会となりました。
その7に続きます。