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2020 / 03 / 01
私とステラ・アドラー演劇、そしてリンクレイターヴォイス その2
外は麗らかな春の兆し、今日から3月です。
言うまでもなく、本当だったら今日はマチネ、ソワレの2回でしたね。いつも行く神社に咲くミツマタの花の香りをこれでもかと、うんと鼻の奥まで吸い込みたくなりました。
その2になります。
校長室に通された私は意気揚々と「ユージン・ラザロフのチェーホフを受けたいのです。」と宣言。すると、目の前のブロンドの女性は一瞬の沈黙のあと、ゆっくりと「チェーホフクラスは、この学校でも最高位のクラスです。あなたは、まずテクニーク1,2 そしてヴォイス&スピーチ1,2 というクラスを終了しないと、受けられません。」私は答えました。「それは無理です。私には二人の小さな男の子がいて、そんなに沢山のクラスを受講することは、出来ません。」と、言い切ったときに、提示されているタイムスケジュールの紙には、火曜日と木曜日に、連続で「テクニーク1」と「ヴォイス&スピーチ1」が組み込まれていました。つまり、これなら、週2日通うことで、クラスを受講することは出来ます。「わかりました、受講します。」校長先生に言いました。まったくどんな内容なのかも知ろうともしませんでした。目的はひとつ、ユージンのクラスを再び受けるということだけでした。
この出会いがまた、大きく私を変えていきます。
テクニーク1,2は、みなさんが私のステラ・アドラー演劇長期クラスでやってきた初期の内容がそれです。思い出して下さい。最初に何をやったのか。「ビジュアライゼーション」視覚化でしたね。私もまさしくそれからスタートしました。講師は、ティム・マクニール。その後やはり私の偉大なる恩師となった人です。
前に立った生徒は、ティムの指示のもと、自分の家族の誰かを目の前に浮かべ、それを見て、口述していきます。私が立つと、ティムは「Your Father 」お父さんをそこに立たせてと支持しました。父…..59歳で逝ってしまった父。壁の向こう側に父を立たせ、ただシンプルに見たままを口述していく。ここで間違えてはいけないのは、記憶を辿るのではなく、自分の前方にその像を置くのです。明確に見えます。広いおでこ、目尻のシワ、ワイシャツを腕まくりしていて、薄い貧乏耳、すべてを言い終えた私に、ティムは聞きます。”How do you feel?” どのような感知がありますか?私は喜びに満ちあふれて即答しました。「今!父に会いました!」
なぜ、このようなことからスタートするのでしょうか?「イマジネイションがあれば、宇宙にも行ける。」このイマジネイションとか、イメージを持って!とか、よく演劇を学ぶと言われると思いますが、ではそれは何?と聞かれるとちゃんと答えられる人はどのくらいいるのでしょうか。ここでいうイマジネイションは、単純に「絵」を見る力。そこに像を見る力なのです。強烈なその像を見る力が俳優は必須なのです。
ヴィジュアライゼーションのエクササイズは、そのあと、「家族」から、「自分にとってもっとも美しい場所」になります。このお題をもらって私が最初に浮かんだのは、小さい時に住んでいた貧乏長屋のようなアパートです。ベニヤ板の向こうからは隣のピアノの先生の音が流れ、母はそれを愛していました。二階に行くには外の錆びた階段を上らなくてはなりません、パジャマの私と弟はいつも二人でカンカンと錆びた階段を上がって眠るのです。雨の日は傘が必要でした。家族が4人お金が無くともまだ仲良くいられた場所。それが私にとってこの世で最も美しい場所でした。
ああ、懐かしいあの場所。視覚化することでこの場は”その場”に変わっていきます。いつまでも口述を続ける私をティムは笑って止めました。「もういい、もういい、このままだとNorikoはどこまでも行ってしまうからね。」
場がすべてを与える。
これはステラ・アドラー演劇の最も大きな核の部分のひとつです。今回の「アンティゴーネ」だったら、テーバイなるカドモスの城内、でもそれだけではありません。夜明け前、前夜にはアルゴスよりテーバイに攻め寄せた軍勢が屍を残して逃れ去った次の朝です。絵を見て。どんな絵が浮かびますか?アンティゴーネが閉じ込められた岩屋の中に掘り当てられた空洞(うつろ)は、どんな場所?誰も居ないのか、いや死者がさまよっているのか、生命はいないのか、いやネズミが這うかもしれない、それは一人ぼっちのアンティゴーネには何を与えるのか?みんなは、創り上げていく段階で、その場が明確になればなるほど、安心してその場にいられたという体験があったでしょう。それが、核なのです。
場がすべてを与える。なによりもそれだと言われたとき、当時の私はぽかーんとしてしまいました?少なくとも10年以上の宝塚の舞台経験で、まずは自分の役作りを最初に考えたものです。なのに、最初に場所なのか????ですが、亡き父と再会し、幼き時の懐かしい場に戻った「体験」をした私は、嬉々として帰路につきました。いったいなんだ?でも、おもしろい!!!
なかばしぶしぶ受講した「ヴォイス&スピーチ」でも、また革命的な出会いが待っていました。
その3に続きます。